【MIT式 デザインシンキング】新規事業開発の成否を分ける“初めの問い”を設定するポイント
こんにちは。イノベーションソリューション事業部の袖山です。
今回は、MIT(マサチューセッツ工科大学)式の新規事業開発の成否を分ける上で大切な“初めの問い”を設定する方法を紹介します。
前回の記事「MITでデザインシンキングを学ぶ各国のプロフェッショナル達はどんなテーマに興味を持っているのか?」では、各国のプロフェッショナルたちがどんなテーマに興味を持っているのかをまとめましたが、今回はその調査から導き出された適切な問いを設定するための考察記事となります。
新規事業を立ち上げる際には必ず”問い”が必要になります。その問いによってプロジェクトがスムーズに動き出したり、思わぬところで躓いてしまったりします。
“初めの問い”とは?
デザインシンキングを使って新規事業開発のプロジェクトを進める際に最初に設定する問いで、”Innovation Opportunity”を定義するためのものです。この問いには企業を上げて取り組むべき領域や参画メンバーが興味のあることや意志などをまるっと内包します。
問いの設定には「How might we ~?(HMW)」という形式を用います。
How might we improve __________? (どうすれば〜を改善できるのか?)
Ho might we completely re-imagine ______________? (どうすれば〜を再構築できるのか?)
How could we find a new way to______________? (どうすれば〜するための新しい方法を見つけることができるか?)
デザインシンキングにおいてはHMWクエスチョンを多用しますが、プロジェクトを始める際に用いるのは革新的なビジネスの創出をミッションに掲げるMITオリジナルのやり方です。
HMWクエスチョンを用いた初めの問いの例をいくつか紹介します。
私がMITでデザインシンキングを学んだ際に、各国のプロフェッショナルたちが提示してきた質問です。
どうしたらミレニアル世代のためのファイナンスに関する教育を再構築できるか?
どうしたらファッション業界のリサイクル問題を解決できるか?
どうしたら中小ビジネスを立ち上げたい人を助けられるか?
どうしたら新ママを助けられるか?
どうしたら犬猫の効率的な保護を進められるか?
どうしたら商業施設にもっとプレハブ建築を活用できるか?
どうしたら建築現場でもっとドローンを活用できるか?
どうしたら金融市場にAIを活用できるか?
こうした問いがプロジェクトを始める際に必要になります。
なぜ”初めの問い”の設定が大切なのか?
一番の大きな理由は、チームで進める新規事業の立ち上げにおいて、
①プロジェクトの方向性を定義する
②方向性をメンバー間で共有し目線を合わせる
ことが必要だからです。
この”最初の問い”によって、プロジェクトの進む方向の筋の良さみたいなものが大きく違ってきます。たかが“問い”、されど“問い”です。
ホームランを打ちたいならバックネットの方向に向かってボールを飛ばしても絶対にホームランにはなり得ません。フェアゾーンに向かって打たなければいけません。
デザインシンキングはチーム戦です。一人でうんうんと机に向かって鉛筆を舐めていてもアイデアは生まれません。さまざまなプロフェッショナル達が集まることで革新的なアイディアが生まれ、進化のスピードも早くなります。それぞれ異なるバックグラウンドや意気込みを持ったメンバーが一丸となって進むためには、チームがどこに向かって進むのか?その方向性を明示し、全員のコンセンサスを作ることが大切です。
デザインシンキングではHMWクエスチョンを多用してアイデアの具体化を進めることになりますが、この“初めの問い”も含めて、あらゆる局面において設定することになる”問い”の質がプロジェクトの成否に関わってくると言っても過言ではないでしょう。
"初めの問い"の3つの種類
初めの問いには3つの種類があります。
これはMITのプロフェッショナル達が持ち込んだ100の質問を、私なりに体型分類したものです。
人の課題・ニーズに関する問い
社会テーマに関する問い
技術に関する問い
人の課題・ニーズに関する問い
デザインシンキングでは鉄板の人が起点になっている問い。ユーザーは課題を解決してくれるソリューションにお金を払うので、この種類の問いはビジネスに直結しやすい。
どうしたらミレニアル世代のためのファイナンスに関する教育を再構築できるか?
どうしたら中小ビジネスを立ち上げたい人を助けられるか?
どうしたら新ママを助けられるか?
社会テーマに関する問い
SDGsや環境問題に関連する問い。必ずしもビジネスに直結することは限らないが、取り組むことで企業イメージのアップなどの効果は期待できる。
どうしたらファッション業界のリサイクル問題を解決できるか?
どうしたら犬猫の効率的な保護を進められるか?
技術に関する問い
AI、ブロックチェーン、5G、など新しい技術をどう活用するか?という種類の問い。
どうしたら商業施設にもっとプレハブ建築を活用できるか?
どうしたら建築現場でもっとドローンを活用できるか?
どうしたら金融市場にAIを活用できるか?
“初めの問い”の設定で気をつけるべき点
“初めの問い”の設定で気をつけるべきなのは、社会テーマや技術に関する問いです。
これらの問いには、ユーザー視点がごっそりと抜け落ちている場合が多いため注意が必要です。
ユーザーは何か困っていることが解決される場合にお金を払います。
いくらテーマが立派でも、ワクワクするような新しい技術が含まれていても、ユーザーが困っていることに根付いていなければ、その問いの先にあるアイデアはビジネスにはなり得ません。
具体的に社会テーマや技術に関する問いは何が難しいのか?どうすればビジネスに結びつく方向性へと舵を取れるのかについて解説します。
社会テーマに関する問い
どうしたらファッション業界のリサイクル問題を解決できるか?
この問いで困っている人は誰でしょうか?
答えは地球です。
課題を解決してもらった地球は企業にお金を払うでしょうか? 答えはNOです。
つまり、リサイクル問題という問いをいくら掘っても、ビジネスにはなりにくいということです。
もちろんリサイクルビジネスというマーケットは存在していますし、バーバリーなどのブランドの売れ残り焼却問題で取り沙汰されているように、環境問題に取り組まないと刺されるという問題が発生するため、企業は防衛目的で社会テーマに取り組まないといけないという状況でもあります。
また、社会テーマを新規事業に取り組むことは、間接的に売り上げアップにもつながることが判明しています。「エシカルファッションとSDGs 2019」によると、ファッションアイテムを購入する際に、エシカルな商品であれば普通の商品よりも多少値段が高くても購入すると答えたユーザーの割合は64.4%に上ります。
ユーザーの課題を解決する、またはニーズを満たすビジネスであるという前提が成立する場合においては、社会テーマを問いに含めること入れることは有効な手段であります。
技術に関する問い
技術に関する問いも社会テーマと同様に、ユーザーが何に困っているのか?の視点が抜けがちなので気をつけなければいけません。
技術立国の日本においては技術さえ優れていれば勝てるという信仰が存在したように感じます。そして技術によって20世紀においては大きな成果を上げたのも事実です。
しかしながら21世紀になり、人々の価値観が多角化し、サービス・プロダクト購入のドライバーが性能ではなく企業イメージや体験の良さにシフトしてきている中で、技術に関する問いから始めることは旧態依然の思考のままとも言えます。
もちろん技術が新しいビジネスを生み出してきたということも普遍の事実です。インターネット、スマートフォンなど、まだ世の中に存在しない新しいプロダクトやサービスが人々のニーズを喚起し、生活自体を変えてきました。
しかしながら、技術はあくまでも人の課題を解決したり、ニーズを満たすための手段の一つでしかないため、何かの技術を活用したいという動機が新規事業プロジェクトのスタートであったとしても、人に関する問いを忘れずに入れたいものです。
まとめ
新規事業を創出する上での”初めての問い”のポイントについていかがでしたでしょうか。
プロジェクトの初めにおいては問いの設定が非常に重要です。また社会テーマや技術に関する問いには、どんな人の課題を解決するのか?の視点を入れることで、良い問いになります。
新規事業開発や新しいプロジェクトを始める際には、注意深く最初の問いを設定していきましょう。
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袖山晋(Shin Sodeyama)
株式会社ベルテクス・パートナーズ
イノベーションソリューション事業部
デザインシンキング歴15年以上。クリエイティブファームにてブランディングや新事業開発支援の経験を経のち、ものづくりベンチャーを起業し、プロダクトの大英博物館永久収蔵を実現。その後、楽天ヘッドクオーターにて佐藤可士和氏の下、グループ全体のサービス開発支援、UX・ブランド統一プロジェクト推進。ベルテクスパートナーズでは、デザインシンキングを中核にビジネス、テック、クリエイティブの多角的なアプローチでイノベーション創出支援を推進。
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