種類の異なるイノベーション手法を駆使しして成果を追求するTargetの事例
種類の異なるアクセラレータープログラムを使い分ける米Targetの挑戦
米ディスカウントストア大手のTargetが、2017年春に新たなアクセラレータープログラム「Target Takeoff」を開催する。
これまでTargetは本業であるリテール領域で幅広いテーマを設定してアクセラレータープログラムを開催し、本業である小売事業の強化につながる技術やアイデアを持ったスタートアップの発掘に取り組んできたが、Target Takeoffはリテールから離れたウェルネス・ヘルスケア領域に特化して行われる。
なぜTargetが、従来のアクセラレータープログラムと並行する形で、新たな種類の異なるプログラムを開催するのか、その概要や使い分けによるイノベーション創出の狙いについて見ていこう。
1.新たにウェルネス/ヘルスケア特化でアクセラレータープログラムを開催
Targetはこれまでにも米国本社のあるミネアポリスとインドのバンガロールでアクセラレータープログラムを開催している。(前回記事)
従来のアクセラレータープログラムはいずれも、リテールというTargetの主力事業に関連するテーマ設定でスタートアップの発掘を行っており、2017年も継続開催されることが発表されている。
既存のアクセラレータープログラムと並行する形で新たに開催されるのが、「Target Takeoff」だ。米国での従来のプログラムと同様、アクセラレーターのTechstarsの運営で実施される。
応募は2017年2月末で締め切られ、選定されたスタートアップが参加する5月初旬のミネアポリスでのブートキャンプを皮切りに3か月間のプログラムがスタートする。
7月のバイヤーや投資家向けの最終デモに向けて、Target内外のメンター陣からのコーチングや、ミネアポリスのTarget本社内にオフィススペースなどが提供される予定だ。
「Target Takeoff」は募集テーマをウェルネス・ヘルスケア領域に絞り込んでアクセラレータープログラムを実施する。
食品や美容用品、ベビー用品、スポーツウェアなど、運動や健康への心がけを充実させることで日々を健康に過ごしていくことに関連してイノベーションを創出できるプロダクト/サービスを持つスタートアップを募集対象としている。
Targetは近年ウォルマートやアマゾンとの激しい競争に直面して、既存店売上高が前年割れとなることもあり、ウェルネス・ヘルスケアという領域を小売事業において、Targetが競合と差別化を図るために強化を進めている。
ウェルネスやビューティー、ベビー関連商品を含む”retailer’s signature categories”は、前年比で売上高が増加しており、Target内での重要性が高まっている。
加えて、TargetはCSR活動の中でもウェルネスを大きく取り上げている。”keeping neighborhoods healthy”という標語が掲げられ、顧客、従業員やその家族、地域コミュニティ全体のウェルネスに取り組む姿勢が示されている。
新たなアクセラレータープログラム「Target Takeoff」でのウェルネスというテーマ設定には、社会全体の健康意識や安全意識の高まりという背景を踏まえ、CSR的な要素と競合に対する差別化を実現するためのサービス創出を目指すというTargetの狙いが見て取れると言えるだろう。
2.プロダクト開発済みのスタートアップに対象を絞って成果を追求
ウエルネス・ヘルスケアに領域特化したアクセラレータープログラムを開催するにあたり、Targetはスタートアップの募集条件に制限を設けている。
まず、アイデアベースでの応募は認められず、プロダクト/サービスがリリースされていることが必要とされる。
さらに、市場での拡大の見通しが立てられていることが求められ、具体的にはKickstarterなどのクラウドファンディングで一定の資金調達に成功したなどの実績が要求されている。
「Target Takeoff」の応募要件からは、スタートアップがアイデアをプロダクトに落とし込むフェーズを支援するのではなく、プロダクトを市場に投入・拡大させるフェーズでの支援を意図していることが読み取れる。
ウェルネス・ヘルスケアというTargetにとって他社との差別化要素となり得る重要領域に対象を絞り込み、プロダクトがリリース可能な段階にあるスタートアップをアクセラレータープログラムで支援。
成果が見込めるスタートアップに対象を厳選することで、実ビジネスとしてスピーディーな立ち上げを行い、その中から有望なスタートアップを見極めて協業、出資などを行うことを目指している。
3.種類の異なるプログラムの並行運用でイノベーション創出の確度を上げる
アクセラレータープログラムを始める企業は、募集対象とするテーマを広げるか特化するかに関わらず、1つずつプログラムを実施することが多い。
しかし、Targetのように本業に関連する広い領域のプログラムと重要領域に特化したプログラムを並行して運用することで新たなイノベーションの種の発掘と強化したい領域の有望なパートナー候補の探索を同時に進めることで、新しいイノベーションの創出加速を目指すというチャレンジも競争が厳しい業界では必要になってくるのであろう。
アクセラレータープログラムの並行運用というチャレンジが真にイノベーション創出の加速につながるのか、Targetの取り組みはアクセラレータープログラムに既に取り組み、次のイノベーション創出の一手を模索する企業にとって、その成否は今後のプログラムを考える上での有意義な参考事例になるだろう。
執筆者
株式会社ベルテクス・パートナーズ
INNOVATION SOLUTIONチーム
大手通信会社、総合商社、大手メディア企業、クラウドベンダーなど多様な業種での新規事業創出推進支援を実施。各メンバーの支援実績や知見の活用と外部パートナーとも連携しながら業種を問わず大手企業における新規事業/イノベーション創出に関連するソリューションを提供。
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