米国不動産業界でのコンソーシアムによる新規事業の立ち上げ方
不動産テックを牽引するコンソーシアムでのアクセラレータープログラム事例
シカゴにて不動産テックに特化してスタートアップとの協業による新規事業の立ち上げを模索するアクセラレータープログラムをスタートしたのが、アクセラレーターのelmspringと不動産関連のサービスを提供するCentury21、Harrison St.、Watertonだ。
不動産関連業界の幅広い事業領域でスタートアップの参入を促すため、本プログラムは周辺事業領域のサービス展開する企業がスポンサーとなって、コンソーシアム形式でアクセラレータープログラムを実施している。
1.シカゴで不動産テックに特化したアクセラレータープログラムがスタート
シカゴをベースとする、不動産関連テクノロジーに特化したアクセラレーターのelmspringとCentury21、Harrison St.、Watertonが共同でアクセラレータープログラムの募集を開始した。
このアクセラレータープログラムは、不動産テックに特化し、1社独自での開催ではなく、不動産関連事業を展開する企業がコンソーシアム形式で協業して開催している立ち上げ方が特徴的なプログラムだ。
本プログラムは不動産業界における新規事業のアイデアやサービス創出を目的としており、商業用・住宅用の不動産販売 、スマートホームオートメーション 、ホスピタリティ 、複数世帯住宅 、学生寮 、スマートオフィス 、プレース&スペースメイキング(未活用の土地・不動産の活用)といったテーマのシード期のスタートアップを募集している。
こうしたテーマに取り組んでいるスタートアップと、未活用の不動産の発掘、既存・新規の不動産の高付加価値化、不動産販売の効率化などを目指して協業の可能性を模索している。
2.複数の不動産関連事業者がアクセラレータープログラムに参画
本プログラムに選定されたスタートアップ企業は4か月間かけて、サービス/事業の磨き込みを行う。その間、アクセラレーターであるelmspringはもちろんのこと、スポンサー企業であるCentury21、Harrison St.、Watertonからもメンタリングを受けることができる。
スポンサー3社はアメリカ国内に留まらず、グローバルで不動産事業展開している企業となっている。
Century21は世界76カ国に展開し10万人の社員を抱える、日本でもサービスを展開している世界最大の不動産仲介ネットワークである。
そして、Harrison St.は、シカゴを拠点とする不動産投資に特化した投資会社であり、世界で680の物件を抱え120億ドルを運用する会社だ。
最後に、Watertonはアメリカ国内で18,000の物件の管理を手掛けている不動産管理を中心とした不動産関連サービスを提供企業である。
いずれのスポンサー企業も不動産業界に属してはいるが、仲介、投資、管理業務と異なる専門性と事業領域で事業展開を行っている。
不動産業界は非常に事業領域の幅が広く、スポンサーとして参加している企業も同じ業界ながら事業領域は重複少なくコンソーシアムに参加することができている。
本プログラムのように、同じ業界の企業でありながら異なる領域で事業展開する企業がコンソーシアム形式アクセラレータープログラムを運営していく事で、単独でプログラムを実施するよりも幅広いスタートアップからのアイデアを集めて多彩な協業へと繋げる事が可能となる。
3.elmspringの不動産アクセラレータープログラム参加スタートアップ
実際に選出されたスタートアップを紹介していこう。
フリースペースでの結婚式やパーティー、会議への活用を支援するオンラインサービス。
面倒な手続きを排した分かりやすい住宅保険を実現するサービス。
狩猟や釣りの目的地を検索して調べ、探すことが出来るサービス。
オンデマンド型のストレージサービス。
建設工事の際のリスクを低下させるクラウドサービス。
効率的なセールスとネットワーキングのためのリマインダーサービス。
大家向けのプロパティ・マネジメント支援サービス。
室内を含めたルート検索サービス。
不動産マーケットの分析・予測サービス。
最適な駐車場発見、提案サービス。
4.コンソーシアム形式のプログラムで業界横断の取り組みが加速
不動産という事業領域は非常に幅広い。上記で紹介したデジタル分野、AI等の活用による事業の効率化の伸びしろがまだまだ残っている領域と言えるだろう。
プログラムの参加企業は、不動産業界の地域に根差して情報を囲い込むことが優位性となっていた事業モデルから、オープンに情報を開示することでサービスの優位性を築くなどの変化を起こしていくことを狙っている。
アクセラレータープログラムにスポンサーとして参画した各社は、既存の不動産ビジネスの基盤を活かし、新しい技術とプロダクトを有するスタートアップとの協業に可能性を見出し、土地・建物の物件開拓、仲介、プロパティ・マネジメントから不動産投資に至るまで、それぞれの既存モデルの刷新を現在進行形で行おうとしている。
一社独自開催のアクセラレータープログラムは、自社の目指す成果に注力できる利点がある一方で、業界の事業範囲が広いが、自社の取り組む領域に限りがあるような場合には、プログラムに参加するスタートアップを確保するという点で、応募を集められるスタートアップの領域が狭まるという難点があった。
コンソーシアム形式でプログラムを実施することで、対象業界の幅広い領域から事業展開を行うスタートアップのプログラムへの応募を促すことができ、参加したスポンサー各社も協業先候補となるスタートアップを結果的に多く集めることができるようになる。
日本国内では目立った事例は見られないが、これから取り組もうとする企業にとって新たなオープンイノベーションの手法の選択肢の一つとして検討する価値のあるものになるだろう。
執筆者
株式会社ベルテクス・パートナーズ
INNOVATION SOLUTIONチーム
大手通信会社、総合商社、大手メディア企業、クラウドベンダーなど多様な業種での新規事業創出推進支援を実施。各メンバーの支援実績や知見の活用と外部パートナーとも連携しながら業種を問わず大手企業における新規事業/イノベーション創出に関連するソリューションを提供。
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