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執筆者の写真東條貴志/Takashi Tojo

【海外先進事例】地域ごとのアクセラレータープログラム使い分けによる協業促進


スタートアップの集積状況に合わせてテーマを変える海外のプログラム

 日本企業のアクセラレータープログラムでも海外を含めて展開する事例が出始めてきていますが、現状では、基本的には国内で展開するプログラムと同じテーマにて複数地域でスタートアップを募集するに留まっているように見受けられます。

 一方で、先行する海外企業では、本拠地となる地域に加えて複数地域でアクセラレータープログラムを展開する際に、展開エリアのスタートアップの集積状況に合わせてプログラムで募集するテーマを変えていくといった手法を取る企業が多く出てきています。

 地域に合わせて募集テーマを変更していくことにより、グローバルで最も協業効果を高めることができるスタートアップを集めるきめ細かいプログラム設計が海外では模索され始めています。

1.スタートアップが集積するエリアとその特色

 アクセラレータープログラムの展開地域の使い分けを行うにしても、まずは集積している地域と、その特色を理解した上で、プログラムを実施することで期待できる成果を明確にして、プログラムの実施を検討することになります。

 主な集積エリアとしては、米国を除くと下記のような地域が代表的なスタートアップ集積地となっており、少々、ざっくりした整理になりますが、特色を上げると下記のようになります。

深圳(中国)

珠江デルタの製造業発展に合わせてIoT/モノづくり系スタートアップが集積

シンガポール

ASEANの中心地として東南アジア全域からFintech系など幅広くスタートアップが集積

バンガロール(インド)

Make in India製作による製造業強化と、従来から強みを持つIT産業が掛け合わさってIoT/製造系スタートアップが集積

テルアビブ(イスラエル)

軍経験者なども多く起業し、セキュリティ系など高度な先端技術に強みを持つスタートアップが多く集積

ベルリン(ドイツ)

層の厚いクリエイティブ系人材の多さと、安価な開発が可能な東欧開発拠点が近いことから近年スタートアップが多く集積

ヘルシンキ(フィンランド)

ノキア出身者などによるヘルステックやゲーム開発などのテクノロジー系スタートアップが多く集積

ロンドン(イギリス)

TechCity構想などのIT誘致政策により欧州でも有数のITクラスターとなり、スタートアップが多く集積

2.複数地域での新規事業創出プログラムの使い分け

 グローバルに事業展開を行う企業では、アクセラレータープログラムやその他の新規事業創出プログラムにて、新たなイノベーション創出につながる協業を目指す際にも、本拠地がある地域だけではなく、目的に合わせてプログラムを実施する地域を使い分けることで協業成果の最大化を図る取り組みが進んでいます。

本業の先端領域と周辺領域を集める地域を使い分ける

 メインビジネスの先端技術発掘による本業強化が実現できるスタートアップ発掘を本拠地がある地域で行い、周辺領域での新たなビジネス創出やサービス強化につながるようなスタートアップ発掘を本拠地以外で実施する取り組みが先進的なメーカーでは模索されています。

 例えば、仏航空大手のエアバスでは「BizLab」というイノベーション組織をフランス/トゥールーズ、ドイツ/ハンブルグに設けて、航空機製造に関連する先端領域のイノベーション創出を目指していたが、インド/バンガロールにも拠点を設けています。

 バンガロールでは、2016年からアクセラレータープログラムを実施し、「VR」、「IoT」、「フィンテック」など航空機製造ビジネスと直接関連しない、周辺領域のイノベーション創出の役割を設定してプログラム運営を行っています。

地域に求める機能でプログラムの実施テーマを分ける

 グローバル展開する企業において、地域ごとの役割に合わせてプログラムのテーマを切り替えるという取り組みも進み始めています。

 本拠地となるマザーマーケットでは先端技術開発につながる協業先スタートアップの開拓を行い、販売拡大を目指す地域ではマーケティング/セールス系の技術を持ったスタートアップ開拓を行うといった使い分けがなされています。

 例えば、独ダイムラーでは「Startup Autobahn」というアクセラレータープログラムを独とシンガポールで実施しているが、ドイツでは自動運転や未来のモビリティに関わるハードウエア、ソフトウエア系スタートアップの募集がなされているが、既存自動車の販売拡大を目指すASEANでの販路/顧客接点拡大に向けてシンガポールでは、販売・アフターセールスの補完につながるスタートアップの募集を行っています。

地域の解決すべき課題でプログラムの実施テーマを分ける

 複数地域で、現地でのビジネスを拡大するためのアクセラレータープログラムを行う場合、各地域の課題に合わせたテーマ設定を行うプログラム展開も行われ始めています。

 例えば、独製薬大手メルクでは、グループ全体のイノベーション拠点としてイノベーションセンターという施設を設置し、社内外のイノベーションのアイデア/技術を集める取り組みを進めています。

 ドイツ/ダルムシュタット、ケニア/ナイロビの拠点にアクセラレータープログラムを実施していますが、先進医療の実現が課題となっているドイツは先端分野のライフサイエンスや高機能素材に関連するスタートアップを、医療サービスの提供環境やインフラに課題を抱えるケニアではデジタルヘルスケアと言ったテーマで医療の質向上の実現につながるサービス提供ができるスタートアップが募集されています。

3.国内プラスアルファでイノベーションの範囲を拡大

 複数地域でアクセラレータープログラムを展開する海外企業でも、多くは本拠地となる地域では自社のメインビジネスに関連する先端領域での協業先となるスタートアップの募集を行っているケースが多く見られます。

 本拠地となる地域プラスアルファの地域でどのようなテーマでスタートアップを募集するかは各社の取り組み/求める成果により特色が出ています。イノベーション創出を先端技術の獲得だけではなく、セールスなどの機能強化や本拠地以外の市場ニーズの取り込みを行う手段としてアクセラレータープログラムを地域で使い分けるのは、先行事例を見ても有効な手段となるのではないかと考えられます。

 今後、国内での取り組みだけではなく海外でも検討する場合、地域の特性に合わせたプログラムのテーマ設定ということを考えていくことで、大量のスタートアップを集めるだけにとどまらない成果を見込めるのではないでしょうか

 

執筆者

株式会社ベルテクス・パートナーズ

執行役員パートナー 東條 貴志

スタートアップでの新規事業立ち上げや事業責任者などの経験と、アーサーアンダーセン、ローランド・ベルガーなど複数ファームでの10数年のキャリアに基づく先端領域における大手企業の新規事業・イノベーション創出支援やAI/機械学習を活用した事業創出/業務改革に多数の経験を有す。

 

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