新サービスのアイデア普及の手段としてアクセラレータプログラムを活用するピツニーボウズ
新サービスのアイデアを参加企業に託す協業プログラム「Scale-Up」の事例
郵便関連システム/フルフィルメント関連ソリューションを展開する米ピツニーボウズが、アクセレレータプログラム「Scale-Up」に取り組んでいる。
郵便業務を手がける会社として1920年にスタートした同社は、顧客エンゲージメントの支援、ECやロケーション・インテリジェンスをも手がける会社へと進化を続けている。
時代のニーズに応じて進化を続けてきたピツニーボウズは、新サービスのアイデアを集め、広げていくために、アクセレレータプログラムによって何を実現しようとしているのか?
1.郵便から顧客管理、EコマースからSNSまで新サービスの展開で進化
米郵便/フルフィルメント関連ソリューション大手のピツニーボウズは、売上38.2億USドル、従業員15,000名を擁し、フォーチュン500社の実に90%を顧客として抱えるグローバル企業だ。
郵便物の発送サービスを起源とする同社だが、その歴史をひも解くと、時代のニーズに応じて事業領域を拡大させてきたことが分かる。
1920年に郵便事業で創業したピツニーボウズは、1957年には世界初の自動郵便仕分け機を発売。大量発送の業務効率化を実現させてきた。
1990年代に入ると、郵便以外のコピー、ファックス、メールの普及した時代の変化に応じて、文書管理をシームレスに行えるシステムを開発。 2000年代以降には、Eコマース企業の台頭によって複雑化した取引、発送業務をサポートし、大手ソーシャルメディア会社に対しては、ローケーション・インテリジェンス技術を提供し、ユーザーの位置情報に合わせた広告の表示を実現させてきた。
2.大手企業連携で事業の多角化に成功して事業拡大
このように、ピツニーボウズは時代にニーズに応じて、様々なソリューションを取り込み事業を進化させてきた事が分かる。 現在ピツニーボウズは、5つの主要分野でのソリューションを有する。
「発送と郵便業務」 郵便物や商品を効率的かつ正確に発送
「顧客情報管理」 顧客の持つデータ解析を通じて顧客インサイトを分析
「顧客エンゲージメント」 顧客の持つユーザーとの取引を通じたエンゲージメント向上
「グローバルEコマース」 オンラインショップの取引プロセスをトータルでサポート
「ロケーション・インテリジェンス」 大手ソーシャルメディア事業者の位置情報連動での広告露出をサポート
これらの事業展開の原動力となってきたのは、大手企業との連携であった。 郵便業務で培ってきた顧客情報管理とエンゲージメントのノウハウ/ソリューションを、企業向けの顧客エンゲージメントサービスとして具現化する際には、セールスフォースと提携している。
また、グローバルEコマース分野では、アマゾンとパートナーシップを組むことで事業を飛躍的に成長させてきた。 事業領域を拡大させる上で、その領域ですでにリーディングカンパニーとなっている大手企業とパートナーシップを組んで新サービスを広げていくというアライアンス推進力がピツニーボウズの多角的な事業展開の原動力となってきたと言えるだろう
3. B2B企業からプラットフォーム企業への進化を目指す
そんなピツニーボウズが、新たな事業展開を見せ始めている。発端となったのは、2016年4月に発表したオフィス向け配送アプリの「SendProTM」。小包や定形外郵便物の配送を簡素化する革新的なアプリを活用した新サービスだ。
従来のピツニーボウズの事業モデルは大手企業を中心にソリューションを提供するビジネスだった。これまでに培ってきた顧客エンゲージメント、Eコマースや大手ソーシャルメディア企業向けにカスタマイズされた新サービスを提供してきた事を踏まえると、小規模事業者をターゲットにしたアプリを転嫁しようというアイデアは同社にとって大きな転換点だ。
オフィス向け配送アプリ「SendProTM」では、商取引の様々な場面で利用できるソリューション、解析ツール、APIが公開されている。 ユーザー企業は、この新サービスを活用することで自身のビジネスでの顧客発掘、ビジネスチャンス開拓、発送・支払い業務の効率化が実現できる。
これまでピツニーボウズが、大手企業向けに提供していたコアなサービスが詰まったアプリだと言える。 このアプリによって、あらゆる規模の企業が同社のサービスを利用できるようになる。
ピツニーボウズとしても、大手企業のみではなく、アプリを通じて小規模な零細企業までターゲットとして顧客の裾野を一気に広げる事が可能になる。
企業規模に関わらず、企業活動に不可欠なプラットフォームを構築していく事で、その影響力を高めていく戦略と言える。 そのプラットフォームを作る上で、ピツニーボウズが着手し始めたのが、スタートアップとの連携だ。
ここでは、ピツニーボウズのアクセレレータプログラム「Scale-Up」を紹介しよう。
4.新サービスのプラットフォーム化を目指す「Scale-up」
プログラムでは、毎回6社を選出。ピツニーボウズのソフトウェアやAPI群を利用したサービス開発を支援している。
支援にあたるのは、これまで1,100名を超えるエンジニア/ソフトウエアディベロッパーに対し、トレーニングを行ってきたピツニーボウズのイノベーションチームだ。 特徴的なのは、選出スタートアップの事業領域が、ピツニーボウズの領域と重なる事を条件としている点である。
本プログラムでは、顧客情報管理、モバイル、データ分析、ロケーションベースのサービス、eコマース管理、機械学習といったピツニーボウズの主要な事業領域がテーマとして設定されている。
ピツニーボウズのプラットフォームを利用して新しいサービスを開発してもらう。 すなわち、ピツニーボウズの顧客となって、プラットフォームを活用した新しいサービスアイデアを生み出してもらい、その普及を担うスタートアップを支援していく事が、本アクセラレータプログラムの狙いなのだ。
選出された6社のスタートアップは、具体的にどのような事業を行っているのかを見ていきたい。
eCourierz「オンラインシッピング自動化システム」
船便貨物の手配を自動化するサービス。送りたい場所、物の種類と重さを入力すると、予約までワンストップで行う事ができる。
Infinite Analytics「ビッグデータ、ソーシャル分析サービス」
Eコマースサイト向けに、サイト内の商品検索、おすすめ商品表示サービスを提供。データに基づいたサイト構築で売上向上を支援している。
MEDIMOJO「デジタルヘルスケアプラットフォーム」
手軽に自身の健康状態を記録し、蓄積データに基づいた分析、医者へのコンタクト、診察予約が行えるアプリ。
niki.ai「注文AIサービス」
注文の体験を一変させるAIサービス。チャット感覚で注文を行う事ができ、タクシー、食品、洗濯、ホテル、フライトから保険に至るまでボットで注文が可能。
Sponsifyme「リアルタイム位置情報マーケティングサービス」
カフェ、ジム、スパなどのオフラインビジネス向けに、リアルタイム位置情報を活用したマーケティングサービスを提供。チェックインした人に対して、割引券等の発行が可能。
WE DO SKY「ドローンによるマッピング、分析サービス」
農業、資源採掘、都市開発、インフラ開発、不動産、災害対応の領域で、ドローンによるデータ収集、分析サービスを提供している。すでに400を超えるクライアントにサービスを展開。
5.アクセラレータプログラムを活用したプラットフォーム企業への進化
ビッグデータからヘルスケア、ロケーション・インテリジェンスからドローンに至るまで、ピツニーボウズの新たなサービスを進化させることができるアイデアを持っているであろう様々なスタートアップが選出されている。
ピツニーボウズは、選出したスタートアップを、新しいサービスを利用する顧客とする事で、サービスのさらなる普及の担い手としていくことができると期待している。 また、自社のリソースを公開して恊働を目指しているピツニーボウズのアクセラレータプログラムは、効率的に新しいサービスのアイデアを実現していきたいと考えるスタートアップにとっても魅力的な存在だと言えるだろう。
従来は既存の事業領域の強化を目指すアクセラレータプログラムでは、協業するスタートアップのサービスを既存サービスに取り込んでいくことを考えることになるのが一般的だ。 しかし、ピツニーボウズのように自社サービス/ソリューション普及の担い手としてスタートアップ育成に取り組むというのは、プラットフォームビジネスを目指すソリューション事業者にとって新しいアクセラレータプログラムの使い方となるのではないだろうか。
執筆者
株式会社ベルテクス・パートナーズ
INNOVATION SOLUTIONチーム
大手通信会社、総合商社、大手メディア企業、クラウドベンダーなど多様な業種での新規事業創出推進支援を実施。各メンバーの支援実績や知見の活用と外部パートナーとも連携しながら業種を問わず大手企業における新規事業/イノベーション創出に関連するソリューションを提供。
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