MITでデザインシンキングを学ぶ各国のプロフェッショナル達はどんなテーマに興味を持っているのか?
こんにちは!イノベーションソリューション事業部の袖山です。
今回は、MIT(マサチューセッツ工科大学)でデザインシンキングを学ぶ各国のプロフェッショナルたちが、どんなテーマに興味をもって取り組んでいるのかを紹介していきます。
私自身MITのデザインシンキングのコースを通じて、世界推定30カ国、200名以上の生徒たちと一緒に最先端のデザインシンキングを学んできました。
このコースの一番最初のお題が、自分の取り組みたいInnovation Opportunitiesを2つ考えて他の生徒にシェアすることでした。
Innovation Opportunitiesとは、文字通り“イノベーションが起こりそうな機会”であり、これをデザインシンキングでは鉄板の「How might we」クエスチョンによって定義しなさいという指示でした。
How might we improve __________? (どうすれば〜を改善できるのか?)
How could we completely re-imagine ______________? (どうすれば〜を再構築できるのか?)
How could we find a new way to______________? (どうすれば〜するための新しい方法を見つけることができるか?)
具体的には上のような質問を使って定義します。プログラムを進行する上で必要ということもあるのでしょうが、プロジェクトの一番最初にInnovation Opportunitiesを規定するのはIDEOやStanfordのデザインシンキングではみられない、MITならではの特長だと言えます。
企業の中で新規事業の立ち上げといったプロジェクトを始めようとした場合、必ず目線合わせの“問い”が必要になるので、MITのやりかたはデザインシンキングをビジネス局面で使うことを想定しているのでしょう。
さて話は逸れましたがEU、アメリカ、アジア、その他(アフリカ・中東)、という地域ごとに、生徒が気になっているテーマとその傾向、ユニークな問いをピックアップして紹介していきます。
なお参加者の国別構成比率についてはざっくり、EU・15%、アメリカ・50%、アジア・30%、その他・5%といった配分です。
EUからの生徒が気になっているテーマ
EUは、デンマーク、スイス、ポーランド、クロアチア、イギリスなどからの生徒で構成されています。
EUにおいては社会テーマをピックアップする人が多いような気がしました。
例えば、こんな問いです。
どうしたら有権者数の減少に歯止めをかけて、民主主義国家の機能を向上させることができるのか?
どうしたら糖尿病などと診断された患者が保険に加入できるようできるか?
コロナの第3波が来たとき、私たちはどのようにしてこの問題に取り組むことができるのでしょうか?
昨今、SDGsやCovid-19といった社会テーマに取り組む企業が増えてきていますが、この影響からでしょうか。
問い自体に貴賎はないのですが、この社会テーマというのは事業創出という点においては実は扱いが厄介です。
特にユーザーの課題やニーズからビジネスのアイデアを探りに行くというデザインシンキングを起点にしたビジネス開発手法においては、どんなユーザーがいるのか?どんな課題やニーズを抱えているのか?それらが最初から明示的である、あるいは徐々に具体的にすることができる必要があります。
「有権者数の減少に歯止めをかけるためには?」といった設問だと、じゃあ有権者って誰?どんな課題やニーズを抱えてるんだっけ?本当に課題・ニーズを持っているの?といった点が非常に曖昧なため、最初のユーザーに辿り着きにくく、プロジェクトのスタートがスムーズにいかない可能性があるので注意が必要です。
閑話休題、EUの生徒で見かけた個人的に興味を惹かれた問いに話を移します。
どうしたらミレニアル世代のためのファイナンスに関する教育を再構築できるか?
こちちらはエストニアの生徒から。
さすが、IT大国のエストニアならではの視座です。
テーマは程よく具体的で、曖昧なので、プロジェクトスタートの問いとしては最適ですね。
どうしたら有給取ったらいけないというメンタリティの社員を減らすことができるか?
こちらもエストニアから。
エストニアにも日本的な有給取りたいけど、取りにくい文化があるのですね。同じヨーロッパ人でも、いかに働かないかが大切でしょ?と言い放っていた私のフランス人の元同僚とは価値観が違うのだなと思いました。
この問い自体はビジネスアイデアに繋がる感じはしないので、あまりいい問いではありませんが、文化的な興味をそそられたのでピックアップしてみました。
アメリカの生徒が気になっているテーマ
アメリカは、アメリカ合衆国、カナダ、中南米から構成されています。アメリカ合衆国からの生徒が90%以上を占めます。
アメリカにおいても、社会テーマ、特に環境問題にフォーカスした質問が目立ちました。
例えば、こんな質問です。
どうしたらファッション業界のリサイクル問題を解決できるか?
人間が出すゴミを減らすにはどうしたらいいか?
どうしたら最小限のパッケージ資材で荷物を送れるか?
どうしたらリサイクルリテラシーを向上できるか?
また、特定産業が抱える課題に関する問いも散見されました。
どうしたらアンチマネーロンダリングやEDD(Enhanced due diligence)問題を解決できるか?
どうしたら再利用可能なエネルギーによって電気自動車の体験をアップグレードできるか?
どうしたらアプリやATMから暗号通貨を現金として引き出す際のユーザー体験を改善できるか?
どうしたら犬猫の効率的な保護を進められるか?
コロナ禍で大学から追い出され、Wi-Fi難民となった生徒をどうオンラインに繋ぐか?
さすが人種のるつぼのアメリカ。デザインシンキングでは解決できそうにない問いも多いですが、問いの種類は十人十色ですね。
人にフォーカスした良い問いもたくさんありました。
どうしたら簡単に企業内メンターを探すことをサポートできるか?
どうしたら中小ビジネスを立ち上げたい人を助けられるか?
どうしたら、医師と患者のコミュニケーション、治療法の選択、患者の期待管理といった体験を改善できるか?
どうしたら新ママを助けられるか?
人にフォーカスした問いというのは、課題の検証やソリューション考案、そしてその先のビジネス創出にも繋がる印象を受けますね。最初の問いなので曖昧な部分も多分に残っていますが、その曖昧さよりも可能性の方に期待したくなる問い達です。
アジアの生徒が気になっているテーマ
アジアは、中国、シンガポール、インドネシア、ネパール、UAE、インド、パキスタン、オーストラリア、ニュージーランドの生徒から構成されます。日本からの参加は、私の所属していたセクションにおいては私のみでした。
アジアの特徴としては、環境や社会に関するテーマが数個しか見られなかったことです。
代わりに、MITから推奨されていた“人”を起点とした問いに忠実なものが多かった印象です。
どうしたら料理中にレシピを閲覧するという体験を改善できるか?
どうしたら教育システムを再構築できるか?
どうしたら家族とのドライブ旅行の時間を楽しい学びの時間に変えられるか?
どうしたらIT音痴なお年寄り世代にIT教育を届けられるか?
既存プロダクトの進化や新しい技術の利用に関する問いが見られたのも印象的です。
どうしたら建築現場でもっとドローンを活用できるか?
どうしたら商業施設にもっとプレハブ建築を活用できるか?
どうしたら階段を上がれる車椅子を作れるか?
問いが”人”から離れると、課題定義やソリューション創出が難しそうだなという印象になってしまいますが、新しい技術の活用によってイノベーションが生まれる可能性も大いにあります。
その他(アフリカ)の生徒が気になっているテーマ
アフリカ・ケニヤから一人だけ参加がありました。彼が皆にシェアしてくれたテーマは、
どうやったら田舎に住むお年寄りに経済的サポートを提供できるか?
どうやったら古くなった服を売ったり寄付したり交換したりできるか?
仕事を引退して、田舎に隠居したご両親の世代は、子供からの経済的なサポートなしでは、生きていくことが難しいと彼は語っています。
2つ目の問いに関しても、現地のリアルな写真とともにデザインシンキングによって解決したい切実なテーマだということがリアルに感じられました。
まとめ
各国の生徒達が気になっているテーマについていかがでしたでしょうか?
母数が違うので単純比較はできませんが、地域ごとの特徴が現れていたような気がします。
余談にはなりますが、最初の問いは大まかに3つにカテゴライズされます。
人の課題・ニーズに関する問い
社会テーマに関する問い
技術に関する問い
イノベーションは“人”の課題を起点に起こるものなので、人の課題・ニーズに関する問いから始めると新規事業開発などのプロジェクトはスムーズに進みます。
一方で、社会テーマや技術に関する問いは扱いが難しく、必ずどこかのタイミングで「誰のどんな課題を解決するのか?」について問いの再設定が必要になりますが、SDGsなどへの取り組みが半ば義務化されていく今日において、避けては通れない問いなのかもしれません。
「プロジェクトの最初にいかに筋のいい問いを設定するか?」については、また次の記事にてまとめたいと思います。
袖山晋(Shin Sodeyama)
株式会社ベルテクス・パートナーズ
イノベーションソリューション事業部
デザインシンキング歴15年以上。クリエイティブファームにてブランディングや新事業開発支援の経験を経のち、ものづくりベンチャーを起業し、プロダクトの大英博物館永久収蔵を実現。その後、楽天ヘッドクオーターにて佐藤可士和氏の下、グループ全体のサービス開発支援、UX・ブランド統一プロジェクト推進。ベルテクスパートナーズでは、デザインシンキングを中核にビジネス、テック、クリエイティブの多角的なアプローチでイノベーション創出支援を推進。
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