海外の病院におけるAI導入による業務効率化/改善事例
病院運営の問題解決でもAI活用の推進が加速
AIは医療分野で活用が進み始め、健康管理や画像診断などで多くの事例ができている。こうした医療現場でのAI活用だけではなく、病院経営や業務効率化でもAI活用が進み始めており、今回はAIを活用して病院での業務効率を改善の事例を紹介していきたい。
1.AIを活用し、業務効率を高めた海外病院
ジョンズ・ホプキンス病院も、多くの診療科の患者対応や急患対応など、スタッフは病院内での膨大な作業に加えて、毎日届く膨大な問い合わせの電話やメール対応、病床の状況確認などの多岐に渡る作業に多くの時間を費やしていた。
こうした作業負担を軽減し業務効率を向上させて、患者へのサービスにフォーカスするためにジョンズ・ホプキンス病院はGE Healthcare Partnersと連携して、AI活用を含むイノベーティブな仕組みとして病院全体を管理するコマンドセンターを構築した。
コマンドセンターは航空会社のオペレーションコントロールセンターのようなもので、病院の病床の使用状況や手術室の利用状況、患者・スタッフの状態など病院運営に必要なあらゆる情報を一元管理できるようになっている。
コマンドセンターは20を超えるスクリーンが設置されており、各スクリーンにはドクターヘリのライブ映像や救急車の地図上での位置など様々な情報がリアルタイムで表示されており、さらに、AI活用によりオペレーターが必要な情報を得るためのサポートがされている。
コマンドセンターのAIは、病院に蓄積された様々なデータ(月別の患者数、各病気の平均入院数、ある場所から病院までの救急車到達時間など)を活用したモデルが構築されており、オペレーターが患者やドクター・スタッフなどからの問い合わせ対応に対して確認したいことに対して瞬時に病院のリアルタイムでの状況に合わせた必要な情報が得られるようになっている。
例えば、食道疾患の患者の受け入れ可否を確認したい場合、AIにより現在入院している食道疾患の患者の入院状況と患者の受け入れ数予測を行い、5日後にいくつの病床が利用可能で、何名の患者を受け入れられるかなどの情報が提供される。こうした仕組みにより急患が発生しても受け入れ可否の判断をすぐに行うことができる機能などを備えている。
ジョンズ・ホプキンス病院では24名のスタッフがコマンドセンターに常駐し、スクリーン上に表示される情報やAIによる判断などを駆使しながら、病院運営に必要な様々な対応について、迅速な判断ができるようになっている。
ジョンズ・ホプキンス病院によると、コマンドセンターの設置前と比較して患者受け入れ率が60%増加、病床割り当てスピード30%改善、午前中での診療完了率が21%改善といった効果が得られ、スタッフ・部門間で必要な情報を共有するスピードが劇的に早くなったという。
2.患者の転倒/転落リスクを事前に見極めるAI活用
米国カリフォルニア州のエル・カミノ病院は1961年に創立され、病床数420を数える非営利の地域総合病院としてシリコンバレー周辺で多くの人々に利用されている。
エル・カミノ病院では、入院患者が睡眠中の痛みなどによる寝返りでのベッドからの転落や、バスルーム使用時に転倒により怪我をする患者が多くいるため、医師が当初の入院理由と関係のない治療対応や、看護師も各病室の見回りに多くの時間を費やしていた。
そこで、患者の安全確保と、医師を含む病院スタッフの業務効率改善のために、エル・カミノ病院は入院患者の転倒/転落リスクを予測するAIの導入を進めている。
エル・カミノ病院は世界的にもかなり早い時期からIT活用を積極的に進めている病院で、1971年にはEHRsという患者の健康状態をコンピュータ上で管理するシステムを導入している。
エル・カミノ病院が実装した独自開発のAIではEHRsに保管されている40年分以上の患者のカルテや様々な記録データを学習させ、入院中に転倒した患者の受けた治療内容や手術、処方薬などから、患者の転倒リスクを見極める学習モデルの構築を行っている。
このAIモデルにより、転倒リスクの高い患者はナースステーション近くの部屋に配置したり、必要があればモニターを部屋に搭載したりすることで、転倒リスクの高い患者のケアを重点的に手厚くすることで患者の転倒を未然に防げるようになり、AI導入前と比べ転倒/転落発生率は39%も低下し、医師や看護師の転倒/転落対応の負担を減らすことに成功している。
3.診療支援に加えて病院運営での活用に進むAI
メディカル領域において健康管理や診療支援だけではなく、病院運営においてもAIなどのテクノロジーを活用が海外ではすでに進んできている。
国内においても、病院における医師・スタッフの人材不足が進んでいくことを見越して業務効率を大幅に向上させる手段としてAIなどのテクノロジー活用を考えていくことが、患者へのサービス向上のために今後は病院経営に求められていくのではないだろうか。
執筆者
株式会社ベルテクス・パートナーズ
AI/INNOVATION SOLUTIONチーム
大手通信会社、総合商社、大手メディア企業、クラウドベンダーなど多様な業種でのAIプロジェクトの推進支援や新規事業創出推進支援を実施。各メンバーの支援実績や知見の活用と外部パートナーとも連携しながら業種を問わず大手企業におけるAIプロジェクトを推進や、新規事業/イノベーション創出に関連するソリューションを提供。
監修者
株式会社ベルテクス・パートナーズ
執行役員パートナー 東條 貴志
スタートアップでの新規事業立ち上げや事業責任者などの経験と、アーサーアンダーセン、ローランド・ベルガーなど複数ファームでの10数年のキャリアに基づく先端領域における大手企業の新規事業・イノベーション創出支援やAI/機械学習を活用した事業創出/業務改革に多数の経験を有す。
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