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執筆者の写真東條貴志/Takashi Tojo

【海外先進事例】コンソーシアムによるアクセラレータープログラム推進のメリット


意味あるスタートアップ集めに苦戦するアクセラレータープログラム

  国内でもオープンイノベーションの取り組みの一環としてアクセラレータープログラムを推進する事例が増えてきていますが、プログラム実施後の成果については満足できる協業に繋がる形にできていないという企業も多く見られます。

 アクセラレータープログラムでの募集方法/募集要項に他社と比較した特色がなく、狙いが不明確で、とりあえず自社のリソースを活用して何か提案してくれるスタートアップを集めようとしているプログラムで意味ある協業パートナーとなるスタートアップを見つけられなかったという声を聞く機会が少なからずあります。

 グローバルでスタートアップ募集を行う海外企業のアクセラレータープログラムを見ていくと、通信、金融、製造他多くの巨大企業がアクセラレータープログラムで幅広いテーマでスタートアップの募集を行っています。

 グローバルで有望なスタートアップを自社のアクセラレータープログラムに惹きつけるためには、スタートアップにリーチできる有力なパートナー/チャネル確保を行うとともに、参加することで多くのメリットが享受できるようなプログラム設計を行うことが必要となっています。

1.スタートアップの応募獲得も戦略的に考えることが必要

 アクセラレータープログラムにも様々な形態があるが、有望なスタートアップを集め、実証実験などを行いながら協業/出資を行うということが、アクセラレータープログラムの主な目的となるが、実際には協業を検討するに値するスタートアップを見つけることができずに、打ち上げ花火的なイベントピッチを行ってプログラムが終了してしまうというケースが多く見られます。

 協業に値するスタートアップを見つけるには、応募してくるスタートアップの質を厳選してプログラムに参加をしてもらうか、応募するスタートアップの数を増やして応募の間口を広げる事で有望スタートアップがプログラムに応募してくる確率を高めることが取りうる手段となります。

 ピンポイントで協業実現が見込めるスタートアップを集める場合は、アクセラレータープログラムという広くスタートアップからの応募を受け付けてそこから絞り込むという取り組みの性質上、幅広くスタートアップコミュニティに入り込むことが可能な有力アクセラレーターと組むというのが定石でしょう。

 しかし、アクセラレーターもそのネットワークでスタートアップを集められる数も限りがあり、アクセラレータープログラムを実施する企業とどのような協業が実現できるかいう、スタートアップを集める企業側の目線で実ビジネスとして意味ある目利きができるアクセラレーターは多くないというのが実状と考えられます。

2.コンソーシアムで間口を広げて有望スタートアップを集める

 では、応募するスタートアップの質を担保するために、どのように応募してくるスタートアップの数を増やす、または、応募してくるテーマの範囲を広げることができるのでしょうか?

 海外のアクセラレータープログラムでは、応募スタートアップの数を増やすために、1社単独でプログラムを運営するのではなく、複数社でコンソーシアムを組んでプログラムを運営することで、協業テーマを1社単独で募集する範囲より幅広く提示し、応募するスタートアップの幅を広げる取り組みが進んでいます。

グループ企業でコンソーシアム

1社単独でのプログラムでは事業領が狭く、スタートアップを募集するテーマが小さくなってしまう企業では、グループ企業を巻き込んで共同でアクセラレータープログラムを運営することで、テーマの幅を広げて多くのスタートアップを獲得するという取り組みが行われています。

 例えば、ブリティッシュ・エアウェイズなどを擁する世界最大級のエアライングループIAGでは、傘下の複数地域の航空会社、航空貨物会社、リワードプログラム提供会社などが共同でプログラム運営を行っている。

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同一業界でのコンソーシアム

業界の裾野が広く、業界に属する企業の事業範囲が狭い要な場合、競合しない範囲で同じ業界の企業が集まり、コンソーシアムを組んでアクセラレータープログラムを運営するような取り組みが行われています。

 例えば、米国の音楽業界では、アクセラレーターのTechstarsが主導して複数のWarner Music Group, Sony Musicなどの音楽レーベルに加えて、アーティストマネジメント/ライブイベント会社、ゲームスタジオ、オーディオシステムメーカーなど9社がスポンサーとなってアクセラレータープログラムを実施し、裾野の広い音楽業界の幅広いテーマからスタートアップを集めてプログラム運営を行っています。

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 また、物流業界ではLufthansa Cargoのような貨物輸送事業者や、倉庫マネジメント、サプライチェーン/物流ソリューション事業者など事業領域の異なる事業者が連携して「Logistics Tech Accelerator」をコンソーシアムを組んで運営し、Smart Warehouse、Smart Transport、Smart Tradeといった幅広いテーマでプログラムを実施しています。

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地域での異業種コンソーシアム

地域で幅広い業種の産業クラスターでエコシステムが構築されているエリアでは、募集テーマを業種限定せずに幅広く設定し、スタートアップの業種を幅広く集める取り組みも行われています。

 例えば、物流世界最大手のFedExは、本拠地であるメンフィスの地域のイノベーション創出を行う非営利組織EPIcenterのスポンサーとなり、地域活性化につながるアクセラレータープログラムを運営しています。

 テーマとしては、物流に関連する領域を中心にFirst-Mile/Last-Mile Delivery、Data-Driven SCM and Predictive Analytics、IoT、Smart Packaging、Robotics、Location- and contextual-based services、Additive Manufacturingなど必ずしもFedExのためではないテーマも含めて募集をかけることで、幅広い領域から有望スタートアップの応募を集めることを目指しています。

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3.単独企業でのプログラム運営の限界を超えるコンソーシアム

 上記に見てきたように、有望なスタートアップを集める手段として複数企業と組むことで、プログラムの募集テーマを広げることにより、単独企業でのアクセラレータープログラムでは接点を持つことができなかったスタートアップからの応募も受けることで、当初想定していなかった新しい協業の形を作れる可能性が生み出せるのがコンソーシアムでプログラムを運営する第一のメリットになると考えられます。

 それに加えて、数千万円の投資が必要となるアクセラレータープログラムの運営コストを、コンソーシアムを組む各社と分担することで一社あたりの負担を大幅に軽減できるということも大きなメリットになります。

 国内ではまだコンソーシアムを組んでというプログラムは、取組内容がコンソーシアムを組んだ他社にも共有されるというリスクを懸念する企業が多く、一部の企業で取り組まれているのみでほとんど実施されていません。

 オープンイノベーションでの協業の可能性を広げるという点に着目して、アクセラレータープログラムの取り組み形態の選択肢の一つとして、コスト、スタートアップ確保の面で大きなメリットが有る取り組みと言えるでしょう。

 取組企業が増えるアクセラレータープログラムの中でも成果を実現していくための選択肢としてコンソーシアム型を検討する場合には、コンソーシアムを組む企業との連携スキームなど綿密に設計/調整を行うことが必要となるため、実際に進める際には外部のアレンジができるパートナーを検討されてはどうでしょうか?

 

執筆者

株式会社ベルテクス・パートナーズ

執行役員パートナー 東條 貴志

スタートアップでの新規事業立ち上げや事業責任者などの経験と、アーサーアンダーセン、ローランド・ベルガーなど複数ファームでの10数年のキャリアに基づく先端領域における大手企業の新規事業・イノベーション創出支援やAI/機械学習を活用した事業創出/業務改革に多数の経験を有す。

 

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