イノベーション推進をグループ横断で行う世界最大級のエアライングループIAGの取り組み
世界最大級のエアライングループIAGがグループ横断で実施するアクセラレータプログラム「Hangar 51」
企業アクセラレータプログラムは単独一社のみが実施することが一般的だが、グループ内で複数社にまたがり、大規模に取り組む例が出てきている。
世界最大級のエアライングループIAGが2016年1月9日から10週間に渡ってアクセラレータプログラム「Hangar51」を実施する。
IAGはイギリスの航空会社ブリティッシュ・エアウェイズ、スペインの航空会社イベリア航空、航空貨物輸送のIAGカーゴなどを運営している。計541の航空機を所有し、就航先は274都市、毎年約9500万人の乗客数を誇る。
IAGはアクセラレータプログラムを通したスタートアップとの協業で、航空ビジネスにおける顧客体験の向上を狙いグループ全体にイノベーションを取り込むことを狙う。
1.IAGの経営層がメンター、グループ全体にイノベーションを取り込む
近年、格安航空会社の勢力がますます拡大している航空業界は航空会社同士の競争が激しい。そのような環境においては、顧客満足度を高めるための顧客体験の向上、オペレーションを正確・効率的に回すためのシステム構築が急務となっている。
冒頭で述べたようにIAGはアクセラレータプログラムを通してグループ全体にイノベーションを取り込み航空ビジネス全般の変革を狙う。
IAGグループのアクセラレータプログラムではIAGの経営層がスタートアップのメンターとしてスタートアップの活動を全面的に支援する。このように経営層からのお墨付きを得ているため、スタートアップにとってはIAGグループのリソースを活用した協業が非常に進めやすい環境となっている。
アクセラレータプログラムを成功させるためには外部のスタートアップへの資金提供だけでは十分ではない。スタートアップを支援する体制を企業側がしっかりと構築できていることも重要なのだ。
2.スタートアップと協業し、航空ビジネス4領域でイノベーションを創出
IAGのアクセラレータプログラム「Hangar51」は航空ビジネスの中で4つの領域で有望/先進的な技術を持ったスタートアップと協業し、イノベーション創出を狙う。
その領域は航空ビジネスの根幹ともいえる部分であり、イノベーションはグループ全体に適用される。
❚ IAGグループが提示する4つのイノベーション領域
【1.空港における顧客体験の改善】
空港での搭乗手続きをはじめとする顧客体験を改善する
【2.ビジネスプロセスのデジタル化】
ビジネスプロセスをデジタル化し、より正確で効率的にする
【3.データの活用】
データを活用した施策で顧客満足度を向上させる
【4.その他】
その他顧客体験を変革する
3.イノベーションを創出し航空ビジネスを変革
IAGは前述のように航空ビジネス4領域においてイノベーション創出を狙うため、旅客部門だけでなく、航空貨物輸送部門のIAGカーゴを含むグループ全体でアクセラレータプログラム「Hangar51」に取り組む。
グループ全体で取り組むメリットは、対象となるビジネス領域が広くなるため、様々な領域で優れた技術を持つスタートアップを多く巻き込めることと、協業を行うスタートアップの技術によりグループ全体で広くサービス/ビジネスの変革を行うことができるということが挙げられるだろう。
例えば、貨物輸送を依頼してくる顧客への電話対応をオンラインで効率化したり、紙ベースの発注書等のやり取りをデジタル化してペーパーレス化するなど、それらの技術を持ったスタートアップを巻き込みグループ全体で一挙にイノベーションを推進していける。
一方で、スタートアップが加わる最大のメリットは、世界最大級のエアライングループIAGが運営する様々な航空ビジネスに接することで、旅客関連だけに留まらない、幅広い航空関連ビジネスに関する理解/知見を深めることができる点だ。
航空ビジネスは顧客体験の向上やデジタル化において、まだまだ改善の余地がある上、市場規模が大きいだけあってスタートアップにとっては大きなビジネスチャンスのある市場である。
IAGグループのプログラムに参加することで航空ビジネスに関する知見を深めることでプログラムの終了後にはIAGグループ以外の航空会社グループとビジネスを生み出す力を蓄積することができる。
さらにスタートアップは各部門の責任者、経営層という権限あるメンターからメンタリングを受けることができるというIAGグループからの手厚い支援が用意され、プログラムの締めくくりとして2017年3月14日、IAGへの取り組みを発表するデモの場を与えられる。
これはスタートアップが航空業界において知名度を高めることができる場ともなる。
グループ全体でアクセラレータプログラムを実施することで大手企業側は単独での実施よりも幅広い対象領域から技術/アイデアを持つスタートアップを集めることができ、スタートアップも一つのプログラムで幅広い協業によるビジネスチャンスを作り出すことができる。
実験的な取り組みとして小規模に行われることも多かったオープンイノベーションも事業創出機会の拡大に向けたアクセラレータプログラムの大規模化という新たな実施形態が生まれ始めており、その成否が今後のオープンイノベーションのあり方を変えていく可能性もあるだろう。
執筆者
株式会社ベルテクス・パートナーズ
INNOVATION SOLUTIONチーム
大手通信会社、総合商社、大手メディア企業、クラウドベンダーなど多様な業種での新規事業創出推進支援を実施。各メンバーの支援実績や知見の活用と外部パートナーとも連携しながら業種を問わず大手企業における新規事業/イノベーション創出に関連するソリューションを提供。