マリオットホテルがオープンイノベーションの課題に挑戦する「Marriott TestBED」
量より質で協業成功を目指すマリオットホテルの「Marriott TestBED」
企業アクセラレータプログラムは数多くのスタートアップを選出して協業によるイノベーション創出を狙うのが一般的だ。しかし、その分、優れた技術やアイデアを持つスタートアップでも自社の業界に対する理解が不十分だったりで、いざ協業を始めてみるとうまく連携ができなかったりとミスマッチが発生することも少なくない。
一方、高級ホテルのマリオットホテルはそういったミスマッチが起きることを避けられるように慎重に設計されたアクセラレータプログラムを実施した。
マリオットホテルはアメリカのホテル会社マリオットインターナショナルのホテルブランドの一つだ。マリオットホテルは日本、ヨーロッパ、アジア、アフリカ、アメリカ、中南米エリア世界50ヵ国に500以上のホテルを展開。ITをはじめとするイノベーション技術の導入にも積極的な点が特徴的だ。
2016年の秋、ヨーロッパエリアのマリオットホテルがアクセラレータプログラム「Marriott TestBED」を実施した。応募140社のうち8社だけがピッチに進み、さらにプログラムに進んで実証実験まで行ったのは2社だけという厳選タイプのアクセラレータプログラムだ。
このスタートアップの絞り込みこそが、アクセラレータプログラムでミスマッチを防ぎ成果を出すための鍵だ。
1.単なる宿泊場所にとどまらないホテルへ変革を目指す
マリオットホテルはホテルを宿泊場所としてだけでなく、ゲストにとって旅行をより充実したものにする体験を創造する場所に変革したいと考えていた。
その実現のために、「Marriott TestBED」でスタートアップと協業してオープンイノベーションを起こし、自社の従来の取り組みだけでは困難な新たな顧客体験を提供することを目指した。
自社にとって役立つスタートアップのテクノロジーは何か、そして自社がスタートアップに役立てることは何か。そこを明確にして確実なマッチングを図る方向性でアクセラレータプログラムを実施した。
2.スタートアップのホテル業界への理解を深めさせるプログラム
「Marriott TestBED」には合計150社から応募があり、そのうち8社がピッチに立ち2社がプログラムに進む。
選考基準は明確に示されている。
【選考基準】
・旅行、接客分野にマッチしている
・1つのホテルで実施できるものである
・ゲストが市内、地域を開拓する際に有用なツール
・マリオットホテルがゲストのニーズを知る助けとなる
・グローバルシステムに統合する際に大変な手間がかからないこと
通常のアクセラレータプログラムでは数多くのスタートアップを選出してスタートアップとの協業可能性を探るのが一般的だが、マリオットホテルのように2社のみ選出というのはかなり厳しく絞り込みを行っている。
マリオットホテルとしてはスタートアップのホテル業界への理解を深めさせてミスマッチをなくし、アクセラレータプログラム終了後にもマリオットホテルにとって役に立つイノベーションを創出したいと考えたのだ。
選出されたスタートアップ2社はマリオットホテルから数日間、徹底的にホテル業界への知識を教授された後、マリオットホテル内で6週間のサービス・製品の実証実験を行った。また、宿泊・接客業界においてオンラインマーケティング、ブランディングに精通したメンターたちからメンタリングを受ける機会も持っている。"
選出企業①「Jambo」宿泊者同士をつなぐプラットフォーム
Jamboはマリオットホテルのゲスト同士をマッチングさせるアプリとして活用されることが想定され、ホテルを単なる宿泊場所としてだけでなく社交の場として機能させる役割を果たす。
選出企業②「Dazzle」音声認識の接客支援システム
Dazzleはゲストからの問いかけに対して応答するAIを搭載した音声認識の接客支援システムだ。ホテルのゲストの部屋に設置されることが想定される。たとえば、天気や時間などの簡単な質問であればDazzle自らが応答し、「ヨガ教室を予約したい」といった、複雑な質問に関しては人間の接客サービスにメッセージを転送する。
3.アクセラレータプログラム後を見据える
従来のアクセラレータプログラムは多くのスタートアップをプログラムに進ませるパターンが多かった。しかし、そのやり方では業界のビジネスに十分適応できないスタートアップも出てくるだろうし、成果が出ないことも多々ある。
そこでマリオットホテルはホテル業界にマッチしていると考えられる製品・サービスを提供するスタートアップのみを厳選した。さらに、そのスタートアップへのホテル業界の知識の教授、メンタリングや実証実験でフィードバックを与えるなど十分な教育を施すことでスタートアップのテクノロジーとマリオットホテルの環境とのすり合わせを行いミスマッチの回避を試みている。
厳選型のアクセラレータプログラムを実施するにはスタートアップに期待していること、そしてスタートアップにとってのメリットをしっかりと示すことが重要になる。その上で自社の既存リソースを使わせ、自社のエキスパートによるアドバイスなど徹底的なサポートを行うことが合わせて必要になる。協業による成果を出すことにこだわるマリオットホテルの「Marriott TestBED」は厳選型のアクセラレータプログラムのお手本のような事例だ。
執筆者
株式会社ベルテクス・パートナーズ
INNOVATION SOLUTIONチーム
大手通信会社、総合商社、大手メディア企業、クラウドベンダーなど多様な業種での新規事業創出推進支援を実施。各メンバーの支援実績や知見の活用と外部パートナーとも連携しながら業種を問わず大手企業における新規事業/イノベーション創出に関連するソリューションを提供。