スポーツ業界でベンチャー企業と組むLAドジャースのオープンイノベーションの取り組み
MLBのドジャースがスタートアップ5社と有望なイノベーション創出に挑戦
米国のスポーツ業界ではスタートアップと協働しイノベーションを導入する動きが活発化している。その中でも目を引くのがMLBのドジャースの取り組みだ。
2016年11月10日ドジャーススタジアムにおいて、ドジャースがアクセラレータプログムで支援するスタートアップ5社が自社製品・サービスのデモを投資家、関係者の前で行った。
それらスタートアップの製品・サービスは非常にユニークで指折りの有望株だと好評を得たようだ。当記事では、ドジャースのアクセラレータプログムの狙いとその背景に迫る。
1.スポーツ業界で続々と導入が進むアクセラレータプログラム
2015年にドジャースがスポーツ業界でも珍しいアクセラレータプログラムを実施した。それに続いて種目が異なる、NBAのPhiladelphia 76ers、NFLのMinnesota Vikingsもアクセラレータプログラムを実施するなど、スポーツ業界でのオープンイノベーションの取り組みが活発化している。
一般的にはビジネスとしてのイノベーションが表からは見えにくいスポーツ業界においても、顧客体験の向上、運営の効率化を狙いとしたイノベーションの取り組みが着実に生まれ始めている。
2.ドジャース2回目のアクセラレータプログラムは成果にこだわる
ドジャースでは2015年に1回目のアクセラレータプログラム行い、プログラムの中で10社のスタートアップが選出された。起業直後のシード、アーリーステージのスタートアップから、すでに製品・サービスを持つグロース、レイターステージのスタートアップまで幅広い。
シード、アーリーステージのスタートアップには、スポーツくじに利用する分析ツールを提供する「SwishAnalytics」、選手の身体の動きを計測するウェアラブルデバイスを提供する 「FocusMotion」が選出されている。
グロース、レイターステージのスタートアップには、スポーツイベントをより簡単に運営できるようにするプラットフォームを運営する「LeagueApps」などが選出された。
1回目のプログラム実施後、イベント的な盛り上げだけではなく、具体的なビジネスとしての成果を出すためにはさらにきめ細かい支援をスタートアップに提供すること、そしてドジャースが持つリソースでシナジーが起こせるスタートアップを戦略的に選出する必要性があると判断した。
そこで、2回目のアクセラレータプログラムでは、すでに製品・サービスを持っているグロースもしくはレイターステージにあるスタートアップに限定し企業数も5社に絞ってプログラムを実施することにしている。
有望なスタートアップのビジネスをドジャースのリソースを活用してスケールできるスタートアップを選出するアクセラレータプログラムを実施することにしたのだ。
ドジャースは6%の出資を行うのと引き換えに12万ドルを選出したスタートアップに提供。そして、アクセラレータプログラムを運営するパートナー企業R/GA’sと共にスタートアップのマーケティング、ブランディング、デザイン、販売チャネル開拓支援までメンター付きで3か月間のサポートを実施した。
3.ドジャースが厳選した有望なスタートアップ5社
ドジャース2回目のアクセラレータプログラムでは、前述の考え方/方法に基づき、スポーツ業界に関連した製品・サービスをすでに持っているグロース、レイターステージの有望な企業5社が選出されている。
「Greenfly」
企業がアスリートに対して動画などのコンテンツの作成を依頼し、SNSなどのチャネルで簡単にコンテンツ配信できるようにするプラットフォームを運営している。
試合の撮影を自動化して、ハイライト動画を簡単に作成できるようにするツールを開発している。
バスケットボール選手の靴、バスケットボールにセンサーなどのウェアラブルデバイスを装着し、選手のパフォーマンスを数値でスコア化し分析できるようにするツールを開発している。
野球でも同様の仕組みを実現することを狙っている。
撮影されたバスケットボールの試合動画を分析し、オリジナルなハイライト動画を作成してくれるツールを開発している。たとえばスリーポイントのハイライト動画を指定するとスリーポイントのシーンを集めたハイライト動画を自動で作成してくれる。この仕組みの野球への応用を狙っている 。
Renegade Brandsは強力な洗浄作用を持ちつつも有害性のない生分解性の洗剤Sweat Xを生産販売している。
4. 成果にこだわるアクセラレータプログラムのあり方
ドジャースの2回目のアクセラレータプログラムでは前述のスタートアップのような、すでに製品・サービスを持っているスタートアップのみ対象にしている。そのために1回目のアクセラレータプログラムに比べて、成果を早く目に見える形にすることができる見込みが立つ。
しかしながら、その分魅力的なリソースやメリットをスタートアップに対して十分に提供することが、有望なスタートアップとの協働を取り付け、成功を導くのに必要なのは言うまでもない。
ドジャースのアクセラレータプログラムがスタートアップに与えるメリットは、12万ドルの資金を受けることができること、ドジャースというブランド力のある企業と組んで自社製品/サービスの認知度を高めてグロースを加速することができることにあると言えるだろう。
さらに、ドジャースとパートナー企業の「R/GA’s」から提供されるマーケティング、ブランディング、デザイン、販売チャネル開拓支援はスタートアップが成長を加速させる上で大きなメリットだ。
これまで多く見られた打ち上げ花火的なイベントを実施して終わってしまうアクセラレータプログラムではなく、今回紹介したような成果にこだわるプログラムは、各社の取り組みが一巡した後に、今後増加していくことが予想される。
有望スタートアップの獲得競争も厳しさを増す中で、オープンイノベーションを成果につなげるためのプログラム設計とスタートアップ支援体制の整備などプログラム運営企業側のプログラム設計の努力が今後より必要とされることになるだろう。
執筆者
株式会社ベルテクス・パートナーズ
INNOVATION SOLUTIONチーム
大手通信会社、総合商社、大手メディア企業、クラウドベンダーなど多様な業種での新規事業創出推進支援を実施。各メンバーの支援実績や知見の活用と外部パートナーとも連携しながら業種を問わず大手企業における新規事業/イノベーション創出に関連するソリューションを提供。