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執筆者の写真東條貴志/Takashi Tojo

イノベーション領域の特定とそれに合わせた事業創出手法選択の必要性


迷子になるイノベーション/新規事業創出プロジェクト

 イノベーションという言葉が以前よりも多くの企業で使われる機会が増え、新たな事業創出の手段としてイノベーション/新規事業創出プロジェクトに取り組み始めた、もしくは検討を始めた企業も多いのではないだろうか。

 しかし、プロジェクトを実際に始めてみたものの、最初の事業アイデア出しで数は集まるものの方向感がバラバラで一体何を目的として出されたアイデアなのかよく分からず、どの事業アイデアを事業化検証に進めていいのか判断できないという状況に陥るという話もよく聞くところである。

アイデアの洪水に溺れるイノベーション/新規事業創出担当

 多くの企業でイノベーション/新規事業創出プロジェクトを開始し、社内からアイデアの公募を行うと意外なほど多くの応募があり、社内にこんなにもアイデアを持っている社員がいたのかと驚かされることも多い。

 例えば、ソニーが実施している新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program(SAP)」では2014年4月の開始から7回ビジネスモデルのオーディションを行い、約550のアイデア応募があったという。( 参照

 その他にも製造業や金融などの大手企業でも同様の新規事業創出プログラムでのアイデア公募で100件単位のアイデアを集めることができたという話も聞くようになった。

 しかし、アイデアが集まってビジネスコンテスト/オーディションなどを行い、実証実験や事業立ち上げを進め始めると、一体この事業をやることにどんな意義があるのだろうかと悩む新事業が多々出てくることになる。

 全く制限をかけずに自由な発想で事業アイデアを求めることも悪くはないが、どのような領域で事業を創出するのか明確にしておかないと、事業そのもが成功したとしても後々マネジメントに成果と自社にとっての事業化する意義を説明する際に大いに苦労することになる。

イノベーション/新規事業の創出領域

 

1.イノベーション/新規事業創出領域の明確化で無駄打ちを回避

 例えば、仮に事業としての成長性があるとして、医療機器メーカーが農業用ドローンと関連サービスなどに参入していく意味があるだろうか。

 全くの飛び地でも、そこに戦略的な意図があり、マネジメントも従来の事業領域と異なる新たな収益の柱作りを狙っていくということを理解して取り組めるのであれば意味ある事業となるだろう。

 しかし、マネジメントにそこまでの意図がない中で進められた事業アイデアであれば、何でこんな事業を進めようとしているんだという厳しい指摘をどこかのタイミングで受けることになる。

 アイデア収集の段階でそういった事業アイデアが集まっても整理が大変になるが、それ以上に検討を進める途中でそもそも論的な議論で意義を問われるのも大変なため、アイデア収集を行う段階から狙う領域をある程度定めて事業化の意義で紛糾することにならないようにすることが必要である。

1−1.

新規事業創出を目指す領域を明確化

 イノベーション/新規事業創出の取り組みを始めるに当たり、まずは事業創出を行う領域の全体像を定義することから始めて現場とマネジメントで共通の地図を持つことが領域検討を進める第一歩となる。

イノベーション/新規事業の創出領域の位置付け例

既存の事業領域から、どの事業領域まで事業化アイデアを集める対象を広げていくのか?社内にない新技術を活用した事業まで対象とするのか?検討対象として広げる範囲を明確にしていく。

 この共通の地図に基づいて、事業アイデアを集める際に、あらかじめ対象範囲を定めて、それらを社内で共有することで検討対象となりえない不要なアイデアが出てくることを抑えることができる。

1−2.

対象とする領域ごとにチームを設定して推進

 対象領域をどこまでに設定したとしても、各領域ごとに適した進め方はそれぞれ異なっており、社内のみで進めるか、社外も巻き込んで進めるか、対象領域に合わせたアプローチが求められる。

 これらの領域ごとに求められるアプローチに対応するために、対象領域ごとに検討チームを設置して、他から干渉を受けることなくチームの責任でイノベーション/新規事業創出に取り組んでいくことが必要である。

2.狙う領域に合った方法でイノベーション/新規事業創出を目指す

 では、狙う領域ごとにイノベーション/新規事業創出は進める方法として、どのような打ち手が考えられるのだろうか。

イノベーション/新規事業の創出領域ごとの事業アイデア創出方法

2−1.

自社のリソースを活用して既存事業とその周辺を強化

 新たにイノベーション/新規事業創出にチャレンジする際には、まずは既存事業の高負荷価値化と隣接領域での事業化で既存事業を強化することが第一選択となるだろう。

 社内に眠っている有望な技術やアイデアを持った人材を掘り起こす仕組みを取り入れることで、自社の中から既存事業の領域を広げるイノベーションを起こしていくことを目指していく。

 特にM&Aなどによって事業拡大を進めてきた企業にとっては、経営陣ですら知らなかった技術やアイデアから事業アイデアが出てくることもあり、様々な事業機会創出につながる。

 しかし、自社リソース活用で事業アイデアを集めるとその多くが既に事業部門やR&D部門で考えられているもので新規性に欠けていたり、飛び地事業であるとアイデアの良し悪しとともにゼロからの事業化で投資/リソース投入の面で非常にリスクが高い事業となることが多い。

2−2.

オープンイノベーションで外部の力を借りて高付加価値化 or 領域拡大

 自社リソースだけで既存事業から離れた領域での事業アイデア創出から事業立ち上げまで目指していくことは投資や人的リソースの投入の面でもリスクと負担が非常に大きい。そこで次の選択肢となるのは外部の力を使ってそれらのリスクを抑えて事業化を目指すオープンイノベーションである。 

 技術/知見/リソースもないような隣接領域や飛び地で事業化を目指していく場合、オープンイノベーションで既にそれらの領域で事業展開している、または事業化につながる技術やサービスを持っているスタートアップなどと協業することは合理的な選択肢となるだろう。

 既に存在している技術やサービスを基に事業化が進められるため技術・サービス開発/人材確保などをショートカットすることが可能であり、仮に失敗した場合でもダメージを最小限に抑えることができるのは大きなメリットである。

 しかし、取り組んでいる事業領域、組織風土、目指す事業ビジョンも異なる企業との協業となるため、どのようなプログラム設計で協業推進を目指すのか?相互の利益となるように慎重にプログラムの設計を行うことが必要となる。

2−3.

最適なバランスでのイノベーション/新規事業創出プログラム推進

 イノベーション/新規事業創出は自社リソースでの実現とオープンイノベーションの二択ではなく、それぞれのメリット・デメリットを勘案し、各企業の目指す方針を踏まえた上で最適な取り組みのバランスで取り組んでいくことが必要である。

 現状では、国内企業で自社でのイノベーション/新規事業創出とオープンイノベーションでの事業創出をバランスよく実現できるている例は多くない。

 しかし、海外に目を転じると例えば、仏エアバス社は本業たる航空関連事業は自社R&Dで新技術開発を行い高付加価値化を進めつつ、それ以外のサービス領域や業務改善領域は「BizLab」という組織を設置し、ドイツ、フランス、インドでスタートアップとの協業による事業開発を目指した社内でのアクセラレータプログラム運営により新たな事業創出を進めている。

 イノベーション/新規事業創出の取り組みを開始する場合でも、何か新しい事業アイデアが出てくるだろうという楽観でプログラムを推進するのではなく、狙う領域を見定めてマネジメント/現場で共通認識を作った上で、領域に合わせた最適なプログラムミックスを戦略的に考えてチーム構成とプログラム運営を慎重に進めて仕組み化していくことが納得感のある成果を出すために必要である。

 

執筆者

株式会社ベルテクス・パートナーズ

執行役員パートナー 東條 貴志

スタートアップでの新規事業立ち上げや事業責任者などの経験と、アーサーアンダーセン、ローランド・ベルガーなど複数ファームでの10数年のキャリアに基づく先端領域における大手企業の新規事業・イノベーション創出支援やAI/機械学習を活用した事業創出/業務改革に多数の経験を有す

 
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