イノベーションに対する経営陣との共通認識作りと組織設計(2)
新規事業の取組み方針に対してどのような組織体制を構築していくか
新規事業での取組み方針としてシンプルに整理すると4つの方針に分かれるということは前回記事にて紹介をさせてもらった。
新規事業創出の進め方/取り組み方針の4つの分類
自社で隣接領域
自社で完全手探りで飛び地
オープンイノベーションで隣接領域
オープンイノベーションで飛び地
それぞれの取り組み方針により求められる体制やリソースも異なってくるため、とりあえず事務局を設置して、後は担当の取り組みに任せるというだけではなく、必要なリソースを適切なタイミングで提供できるよう準備が必要となる。
1.イノベーション/新規事業創出の取り組み方針と必要な体制/リソース
各方針で求められる要件に合わせて、担当者と体制構築に必要な具体的なリソースを配置することを検討していくことが必要になる。
1−1.
イノベーション/新規事業担当者に求められる要件
新規事業創出を推進する上で、担当者がどれだけ取り組み方針に合わせた対応ができるかが成否を分けるカギとなる。
社内のみで進めていくのか、オープンイノベーションで外部のパートナー企業やスタートアップなどを交えて事業化検討を行うのかでも進め方が異なり、それらの違いを理解した上での担当の選定と配置を行うことが必要となる。
◆事業企画力
社内のリソースのみを活用して新規事業を投入していく場合は、本業の隣接領域/飛び地の事業いずれの場合でも担当者の企画力、市場に合わせた修正/改善の力が求められる。
◆社内ネットワーク構築/調整力
本業の隣接領域で事業の立ち上げを目指す場合、社内のアイデアの掘り起しや既存事業との連携を進める上で、どれだけ社内で協力を得られるかがカギとなる。
事業化検討を前に進めるために社外での交渉に力を使いたい気持ちを抑えて、社内の調整に次ぐ調整を忍耐強くかつフットワーク軽く動く力が求められる。
◆社外交渉/調整力
自社で隣接領域の事業化を目指す場合以外は、何らかの形で外部の協業パートナーと組んで事業化を目指す形になる。
その際には従来の事業で取引や関係がある先以外と様々な交渉/調整の対応を行っていくことが必要となり、従来の業務になかった渉外対応ができる人材が求められる。
いきなりこれら全ての能力を備えている人材はなかなか存在しないので、新規事業創出の取り組み方針に合わせて必要なスキルを持つ人材を配置することを試みるか、どうしても人材が足りない場合は不足領域に強い外部の専門家を招くということも検討していくことが必要となる。
1−2.
イノベーション/新規事業検討体制に求められる要件
どれだけ新規事業創出に対応できる人材を配置しても、組織体制が従来と変わらず新規事業創出を進める支援ができる体制が整っていいなければ、担当者が世に放とうとするアイデアを実現することはできない。
◆事業部門のコミット
大手事業会社で新規事業創出に取り組もうとすると、ぶつかる壁が既存の事業部門の協力を得ることである。KPIの異なる既存事業部門にとって既存事業を既存する可能性がある新規事業への協力をマイナスと考える場合もあり、マネジメントから事業部門に協力にコミットさせるようにすることは、とくに隣接領域に取り組み場合は重要である。
◆開発体制
どのような業種の新規事業であれ、デジタルが絡むことが大半であり、ビジネスモデルの具体化に際しては、投入するサービス/ソリューションの市場性をクイックに検証し、即座に修正して実ニーズに合わせていくリーンスタートアップ的な開発体制が必要となる。
新規事業担当者の企画/検討/検証内容を受けて、即座に開発対応ができる体制を用意できるかで事業化のスピードは大きく影響を受けることになる。
◆社外パートナー
社内での検討だけでは、イノベーティブなアイデアを出すことは難しく、従来の事業の延長線以上の事業を生み出すことは多くの場合難しい。
協業先、外部支援のパートナーなど自社に知見/ノウハウのない領域をカバーしく照れる外部の事業者をうまく使いこなすことが重要である。
大手の事業会社にてイノベーション/新規事業創出を進めていくためには、「突っ走る人(担当者)」だけがいても新規事業の芽はつぶされるだけで、「支える仕組み(組織/体制)」だけがあっても、笛吹けど踊らずで事業愛では生まれない。
「突っ走る人」×「支える仕組み」をイノベーション/新規事業創出に合わせて必要な要件を同時に満たしていくことが
2.イノベーション/新規事業創出へのマネジメントの理解が最後の後押し
全く成功確率も分からない中で新規事業担当は新たな事業創出に全力でチャレンジしなければならず、そのプレッシャーは並々ならぬものである。しかも多くの場合は、それらの取り組みは失敗に終わるか、意味あるレベルまで成長できずに低空飛行を続けてゾンビ化して終わることになる。
マネジメントとしてはそれらの失敗も織り込んだ上で、複数の新規事業創出プロジェクトを走らせ成功する事業を創出することが必要となる。大手企業では、失敗した担当者はその後の社内でのポジションは非常に不利な状況に置かれることが多いが、本来は失敗した担当者のノウハウは、次の成功に向けた貴重な財産となる。
数多の失敗から成功事業を生み出すために、マネジメントは失敗する可能性があることも理解した上で、それを恐れない新規事業担当者を全力で取り組みに集中できるようサポートすることが必要である。
社内でイノベーション/新規事業創出が継続的にできる組織を実現するために、人を選び、仕組みを作るだけではなく、挑戦を続けることができる社内シリアルアントレプレナーが生まれる組織風土をマネジメントが作るという意識と行動が必要である。
失敗を恐れず新規事業創出に挑戦できる担当者を増やしていくために、前向きな失敗回数をKPIとして評価するといった考え方があってもいいかもしれない。
執筆者
株式会社ベルテクス・パートナーズ
執行役員パートナー 東條 貴志
スタートアップでの新規事業立ち上げや事業責任者などの経験と、アーサーアンダーセン、ローランド・ベルガーなど複数ファームでの10数年のキャリアに基づく先端領域における大手企業の新規事業・イノベーション創出支援やAI/機械学習を活用した事業創出/業務改革に多数の経験を有す